谷蟇『GREASE』『TANIKUGU LIVES』をめぐる断片

tanikugu―最近きいてるその音楽は?

―谷蟇(たにくぐ)のsigarami(しがらみ)さんに再プレスしてもらった、1stEP『GREASE』と『TANIKUGU LIVES』だね。『GREASE』は2003年に発表された、実に10年前のアルバムだ。

―たにぐく、って不思議な名前ね。それはあなたの好きな「チップチューン」のCD、ということになるのかしら。

―「たにくぐ」だよ! これがチップチューンかということだけど、そうだとも言えるし、そうでないとも言える。

―変なの。

―数年前、この種の音楽(さしあたり、チップチューンと呼んでおこうか)に再度興味を持ちはじめた時は、それこそ『GREASE』用の特設ページや、二人も参加した『ファミリーアセンション』の販売用に設けられたページを見ていたから、こうやってディスクを手にしているのは不思議な感覚だよ。

今でこそチップチューンというと、ある種のスタイル、特定のツール、ハードウェア、イベントとともに連想されるものになっている。でも、このアルバムが発売されたころ、日本ではチップチューンは当事者にとって必ずしも明確に(自覚的に)目的化されていないものだったんだ。むしろ「チップチューン」の名のついた商品に違和感がなくなってきたこの世こそ自明ではないってこと。VORCがその語、概念を導入しはじめるのが、2002年。人口に膾炙しはじめるのはそれから。

谷蟇が結成後になって、当初自分たちの音楽をチップチューンと重ね合わせた、という過程は重要だ。これは僕たちが今現在「それ風の」音楽をつくろうと、FamiTrackerやLSDj、おびただしい数の「チップ」VSTi、あるいはmckに手を出すのとは、コンゲン的な動機が異なっていると思う。たとえば、だけど、『DTMマガジン』2013年9月号の特集「スーパーゲームミュージック」で紹介されているような「それ風の」聴覚的効果をもたらす音楽をつくるためのマニエラは所与のものではなかったということさ。

当人たちの驚きもふくめていうと、谷蟇はチップチューンを発見したのではなく、チップチューンによって発見された電子音楽ユニットなんじゃないかな。sigaramiさんは『TANIKUGU LIVES』のCDのリリースされた2005年、結成当時のことを回想して、こんな風に言っている。「そもそも当初は”チップチューン”という言葉を知らなかったので、おぼろげに「古ゲーム音楽ぽく行こうか?」などと言った、記憶があります」(0-0-0-0|tanikugu実験場)。

―また、それがここにある、sishoさんがこの作品に寄せたコメントに結びつくわけね(「もともとチップチューン「風」であった谷蟇ですが、ライブの日程が差し迫ると、「とにかく作らねば」の一念に駆られ、いよいよチップぽさもナリをひそめてゆき、挙げ句に出来たのがこれらの曲」)。

―わたしがきいてるファミコン(NSFと言ったほうが良いかもしれない)やゲームボーイの音楽とはずいぶん感触がちがうわ。

―ファミコンやゲームボーイがチップチューンのディスクールにおいて大きな部分を占めてきたのは確かにしても、学問と同じく、チップチューンにも王道なしさ。VGMの歴史から見渡してみても、それぞれは「一つ」に過ぎず、またその帰結を一つにはできない。僕としては(コホン!)メインストリームがどうのこうのは考えたくないね。ただ、二人がYMCK、Omodaka、hallyといった別の意味で王道を行く人たちと交流を築いてきたというのは、興味深いよ。
谷蟇はその活動初期、音源(録音された自作曲という程の意味)をmicromusic.netにアップロードしていた。8bitcollectivやchipmusic.org以前のこの界隈のミュージック・シェアリング・サイト(むず痒い言葉だこと!)では草分けにあたるこのコミュニティに参加していたミュージシャンのスタイルだって雑多なもの。Blip Festivalの出演者たちにしても、みながみな、同じ「チップチューン」を目指しているわけじゃない。なかにはVGMなんて知らない、ファミコンなんて触ったことがない、という人だっているだろうね。

―そうね、「ピコピコ」というコピーに収まりきらない懐の広さがある。そういえば最近、『Micro Music For Micro People』っていう101人・101曲・101分のコンピレーションがCalmDownKidderからリリースされていたけれど、あなたは聴いた?

―アイデアは新しいものではないと思う。micromusic.netから登場したgwEmも曲を提供しているね。何で谷蟇にオファーがなかったんだろう。

―まあまあ。ところで『TANIKUGU LIVES』がダンス・ミュージックなのに驚いたわ。テクノがどうこう細かいところは抜きにして、ベッド・ルーム・ミュージックを飛び抜けて、大きな音量で鳴る場所のために、この音楽が作られていることに。

―チップチューンはダンス・ミュージックと親和性が高いんだ。って、それはあなたの好きなゲームボーイ・ミュージシャンの曲にも言えることでしょう?

―そういえば、そうね。でもここにあるのはもっと歪で、でもそれでいて透明な……分類しにくいな。「上がる」でも「下がる」でもない、耳を宙づりにされる感じ。

―二人が「毒」と言うものかもしれないね。

―『GREASE』の収録曲は短いものが多いけど。

―『GREASE』はゲームのサウンドトラックとして作られたものでもあるんだ。架空の、じゃなくて実際に遊べるFLASHゲーム。sigaramiさんはゲーム以外でもドットを打ったりしているけど、このような事実から、僕は谷蟇が、チップチューンを考える際のメルクマールを多く与えてくれる存在のような気がしている。
チップチューンとゲームは関係の深いものだが、前者は後者から独立した手段でもあること。ファミコン・カルチャーに根ざしながら、彼らがオリジナル曲を率先して作っていったこと。
sigaramiさんはFM-TOWNS、LYNXユーザーだったことを振り返って、なぜX68000とWonderSwanでなかったか、とこぼしていたけれど、その選択がかえって僕には興味深いんだ(sishoさんがどんな遍歴をお持ちなのかは、まだ分からない)。
結論を先取りしてしまおう。谷蟇は優れたチップミュージシャンにとどまらない。二度と繰り返し得ない存在である。言い換えるとチップチューンの歴史的な証言者、ネイティヴ・インフォーマントなんじゃないだろうか。

―二人にしかできない、語れないものが多すぎる、と。

―そう。チップチューンについて何かを根本的に考えようとすると、必ず谷蟇がそこにいるんだ。

GREASE
http://www.3cm.jp/ao/grease/

TANIKUGU LIVES
http://www.3cm.jp/ao/lives/

Leave a comment

Filed under Uncategorized

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s