Intro for Diskmag SID Compilation

はじめに

30年間、休むことなく

1982年1月コモドール社より、コモドール64が発売されて30年が経過しました。

とうのむかしに「旧世代機」に括られたはずのこのホームコンピュータは、ある特別な関心を払われながら、歳を重ねています。

特別な関心とは、オールド・コンピュータに仲間入りした後、当時のユーザーたちに懐旧の対象として視線を向けられるのとは、また別のことです。

具体的には、私はこのホーム・コンピュータに搭載されたサウンド・チップを利用して(のために)、2012年現在も「新しい曲」が発表され続けていることに驚いています。
これはレトロ・コンピューターへの愛情なしにはありえない現象でしょうが、かといってそれだけにも帰せられない「持続」、謎めいた事象の集積です。

近年、旧世代のホーム・コンピュータやホビー・コンピュータ、またアーケードや家庭用ゲーム機(コンソール)に使用されたいくつかのサウンド・チップを用いた音楽、あるいはそれらを利用して制作された当時の音楽(多くはゲーム音楽)に感化された音楽スタイルを、ChiptuneないしはChipmusicと呼ぶ習慣が広まりました。
これは制作環境の展開や整備と、並行した現象と考えられます。

コモドール64における音楽も、しばしばChiptuneに分類されますし、それが間違っているわけでもありません。

しかし、それらの音楽――通常SIDと呼ばれる――が30年弱の間、「それ自体」として制作されてきた歴史的文脈を看過することはできないはずです。

前置きが長くなりました。では、それは、どんな種類の音楽なのでしょうか?

VGM

30年間のなかには、ヴィデオ・ゲーム・ミュージック(VGM)としてコモドール64の音楽制作ハードとしてのポテンシャルが知らしめられた時期があります。
まずはVGMに着目してみましょう。

日本のホーム・コンピュータも、ヴィデオ・ゲーム機としての役割を担ってきましたが、それは海外においても共通する事象です。
コモドール64、ZX スペクトラム、アムストラッドCPC、アミガ等々……ゲーム・ソフトなしにはシェアも関心の払われ方も違っていたでしょう。
ホーム・コンピュータは疑いなく子供たちの「遊び場」でした。

ただ、コモドール64向けの商用ソフトウェア、つまりマニュアルの付属するきちんとパッケージされたビデオゲームが集中的に発売されたのは数年に過ぎません。
80年代後期が「ゲーム機」としてのコモドール64のピークに相当します。

次のサイトより、8ビット・マシン用に膨大な数のゲーム・ソフトを発売し続けたイギリスのゲーム会社、Mastertronicの年度ごとのリリース本数を参照してみてください――この会社がれっきとした「大手」に属すのを考慮していただきつつ。

Mastertronic’s total 8 bit releases each year by computer format @Guitar.org

SIDは1996年より、High Voltage SID Collection(HVSC)というプロジェクトによって現在までアーカイヴ作業が継続されており、最新ヴァージョンにおける総ファイル数は4万を超えます(http://www.hvsc.c64.org/)。

そして、そのなかに占めるVGM――ヴィデオ・ゲームのサウンドトラックの数は、コモドール64のゲーム機として活躍した期間から、自ずと限られてきます。

繰り返しになりますが、SIDは90年以降も制作が行われています。
では、VGMにあてはまらないその他の音楽とは何なのか? なぜいまだに音楽がつくられているか? どこでつくられているのか?

子供たちから大人たちの遊び場へ、あるいはアマチュアたちのアリーナ

「どこで」――その場所を彼らは「シーン」と呼んでます。この言葉は、広義にはコンピュータ、というかコンソールも含んだあらゆる「マシン」のユーザーの集まりを漠然と指すだけなのですが、狭義には、それら「マシン」を利用してあらゆる自主制作的な活動(「健全」なものも「不健全」なものもあると言っておきましょう)を営む人々の集まりです。

そして、ここで話題にするのはC64 scene、SID music sceneになります。

コモドール64の商用ソフトの発売国は主にアメリカとUKですが、シーンの中心はヨーロッパに移ります。
ドイツ、スウェーデン、スイス、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、オランダ、イタリア……プラットフォームがコモドール64から別のマシンになれば、当然掲げる国も変わってきますが、ここに列挙した国のどれかは必ず入ってきます。

シーンの人々はある集まりから構成されていおり、通常は「グループ」という単位で活動します。
日本の同人サークルにたとえられるでしょう。

自主制作的活動は、法に触れるものもあるため、一般に非営利的活動となるのですが、音楽家がアナログやデジタルのリリース物を販売することもあります。
また、制作物のショウケースは、「パーティ」として開かれ、特記すべき点として、このなかにはコンペティション部門も設けられています。
日本の同人活動とのわかりやすい差異になるでしょう。

80年代後半からシーンにコミットした人物の多くは男性、それも10代~20年代前半といったところです。
コモドール64を「ゲーム・マシン」として利用していた層と重なります。

そして、商用ゲーム・ソフトの作曲家が早々とリタイアした後も、シーンには新規参入者にあふれ、現在、10年以上の活動時期を持つ者も少なくありません。

30年間、コモドール64が音楽制作環境一つをとってみても現役でいられたのは、「遊び場」としてよく機能したからでもあり、シーンでの活動を単なるお遊びではなく「ライフワーク」として取り組む人々が多かったということです。

これらのアマチュアであってアマチュアを超え出ようする者のことを、「シーナー」と呼びます。

商用と非商用がせめぎ合う「ディスクマガジン」、またはもうひとつのVGM?

本題に入ります。

コモドール64においても、コンソールや他のホーム・コンピュータと同じく、雑誌というメディアが盛況に貢献しました。

そのなかには、フロッピー・ディスクの付属する雑誌も発売されたのですが、商用ソフトの体験版とは別種のコンテンツを主軸とする注目すべき雑誌が、数点、ドイツで刊行されました。

興味深いことに、これらのコンテンツ(主にミニ・ゲーム)の制作者の多くは「シーナー」であり、しかも彼らの出身国はドイツに限定されません。
シーナーはうまくゆけば、国境を超え、10代の頃から自分のプログラムや音楽を売り、お金を得られるような環境にあったということです。

私はこれら「ディスクマグ」に収録された楽曲を調査し、パッケージ・ソフトウェア向けに制作されたものとは別のVGMとして提示することにしました。
(シーナー自身による活動状況の記録も同様にディスクマグと呼ばれますが、今回は取り上げるのは商用ディスクマグである点を注記しておきます)
具体的には、HVSCをはじめとするコモドール64にまつわるアーカイヴ・サイトをもとにしつつ、独自に調査をおこない、収録楽曲を特定した上で選曲、コンピレーションとして集成しました。

「シーン」で制作された音楽は非常に膨大であるゆえに、当事者たちからもつねに全体が顧みられるわけではありません。
日本に住む私たちにとってはなおさら、接近しがたいものであるはずで、この「報告」が30年という長いスパンでとらえたSIDへの導入になることを願います。

コンピレーションは9パートにわかれます。

追ってこの場所で発表いたします。

– akaobi / Takashi Kawano

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Filed under c64, compilation

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